親名義の家の売却は相続登記から。手続きの流れと注意点を解説

親御さんが亡くなり、実家をどう売却すればよいか分からずお困りではありませんか。親名義の不動産を売るには、まず「相続登記」という手続きが不可欠です。しかし、手続きが複雑そうで、何から手をつければいいのか不安に感じている方も多いでしょう。

この記事では、親名義の家を売却するための第一歩である相続登記について、手続きの流れから費用、税金、注意点まで分かりやすく解説します。最後まで読めば、相続から売却までの一連の流れを理解し、スムーズに手続きを進められるようになります。

目次

親名義の家を売却するには相続登記が必須

亡くなった親名義の家を売却するためには、まず相続登記を行い、不動産の名義を相続人へ変更しなければなりません。登記上の所有者が故人のままでは、法的に有効な売買契約を結ぶことができず、不動産会社も売却活動を進めることができません。

売却を前提とする場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が不動産を相続するのかを決めます。その内容に基づいて所有権移転登記を完了させることが、売却への第一歩となります。この手続きを怠ると、売却そのものが不可能になってしまいます。

そもそも相続登記とは?2024年から義務化

相続登記とは、亡くなった方(被相続人)が所有していた土地や建物などの不動産の名義を、遺産を引き継いだ相続人の名義に変更する手続きのことです。この手続きは、不動産の所在地を管轄する法務局に申請して行います。

これまで任意だった相続登記は、所有者不明の土地問題などを背景に、2024年4月1日から義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に、正当な理由なく登記をしない場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。

相続登記をしないと起こる5つのデメリット

相続登記を怠ると、不動産を売却できないだけでなく、様々な不利益が生じる可能性があります。特に時間が経つほど権利関係が複雑になり、手続きの負担が増えるため、早めの対応が重要です。主なデメリットは以下の通りです。

相続登記をしない場合の主なデメリットは、次の5つです。

  • 不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりできない
  • 次の相続が発生し、相続人が増えて権利関係が複雑になる
  • 他の相続人が自分の持分だけを第三者に売却してしまう恐れがある
  • 不動産が差し押さえられても、権利を主張できない可能性がある
  • 相続登記の義務化に伴い、過料の対象となる場合がある

相続登記は司法書士に依頼するのがおすすめ

相続登記の手続きは、必要書類の収集や申請書の作成など、非常に複雑で専門的な知識が求められます。ご自身で行うことも可能ですが、戸籍謄本の読み解きや書類の不備などで時間がかかり、法務局へ何度も足を運ぶことになるかもしれません。

時間や手間を省き、正確に手続きを進めるためには、登記の専門家である司法書士に依頼するのが最も確実な方法です。専門家に任せることで、精神的な負担も軽減され、その後の売却活動へスムーズに移行できるでしょう。

親名義の家を売却するまでの手続き7ステップ

親名義の家を売却する際は、相続手続きから売却、そして税金の申告まで、決められた手順に沿って進める必要があります。全体の流れを把握しておくことで、計画的に、そして円滑に手続きを進めることができるでしょう。

ここでは、遺言書の確認から確定申告までの7つのステップを具体的に解説します。各段階で何をするべきかを理解し、落ち着いて準備を進めていきましょう。

ステップ1:遺言書の有無を確認する

相続が開始したら、まず初めに被相続人(亡くなった親)が遺言書を遺していないかを確認します。遺言書がある場合、原則としてその内容に従って遺産分割が行われるため、相続手続きの進め方が大きく変わってきます。

公正証書遺言であれば公証役場に、自筆証書遺言であれば法務局の保管制度を利用している可能性があります。遺言書の存在は相続の方向性を決める最優先事項ですので、心当たりのある場所を丁寧に探しましょう。

ステップ2:相続人と相続財産を調査し確定

遺言書がない場合や、遺言書で指定されていない財産がある場合は、法で定められた相続人(法定相続人)を確定させる必要があります。被相続人が生まれてから亡くなるまでの一連の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)を取得し、相続人を調査します。

同時に、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳などを確認し、相続の対象となる財産をすべて洗い出す作業も行います。この調査を正確に行うことが、後の遺産分割協議の基礎となります。

ステップ3:遺産分割協議で相続方法を決める

相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産の分け方について話し合います。これを「遺産分割協議」と呼びます。誰がどの財産を相続するのか、全員が納得するまで協議し、合意した内容を「遺産分割協議書」として書面にまとめます。

この遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印する必要があります。この書類は、後の相続登記や預貯金の名義変更など、様々な手続きで必要となる非常に重要なものです。

ステップ4:相続登記の必要書類を準備する

遺産分割協議がまとまったら、相続登記の申請に必要な書類を準備します。一般的に必要となる書類は多岐にわたるため、漏れなく揃えることが重要です。司法書士に依頼すれば、これらの書類収集も代行してもらえます。

登記申請の際には遺産分割協議書や戸籍謄本一式などが必要です。下記の表を参考に、計画的に準備を進めましょう。

相続登記の主な必要書類
書類の種類 取得場所
登記申請書 法務局のサイトで作成
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式 本籍地の市区町村役場
被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票) 最後の住所地の市区町村役場
相続人全員の現在の戸籍謄本 各相続人の本籍地の市区町村役場
不動産を相続する人の住民票 住所地の市区町村役場
遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書 印鑑証明書は各相続人の住所地の役所
固定資産評価証明書 不動産所在地の市区町村役場

ステップ5:法務局へ相続登記を申請する

必要書類がすべて揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局に相続登記を申請します。申請方法は、法務局の窓口に直接提出する方法、郵送で提出する方法、オンラインで申請する方法(e-Gov)の3つがあります。

申請後、法務局での審査が行われ、不備がなければ1〜2週間ほどで登記が完了します。登記が完了すると、新しい権利証である「登記識別情報通知」が発行され、不動産の名義が正式に相続人のものとなります。

ステップ6:不動産会社に売却の査定を依頼

相続登記が完了し、不動産の名義がご自身のものになったら、いよいよ売却活動を開始できます。まずは複数の不動産会社に物件の査定を依頼し、売却価格の相場や各社の販売戦略を比較検討しましょう。

査定額だけでなく、担当者の対応や相続案件の実績なども考慮して、信頼できる不動産会社と媒介契約を結ぶことが、売却成功の鍵となります。一括査定サイトを利用すると、効率的に複数の会社から話を聞くことができます。

ステップ7:売買契約後に確定申告を行う

無事に買主が見つかり、売買契約と物件の引き渡しが終わった後も、忘れてはならない手続きがあります。それは、不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合の確定申告です。売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、税務署へ申告と納税を行います。

譲渡所得税は、亡くなった親の土地を売る際にも関係する重要な税金です。後述する特例を利用できる場合もあるため、要件を確認し、正しく申告することが大切です。不明な点は税理士などの専門家に相談しましょう。

相続登記と不動産売却にかかる費用と税金

親名義の家を相続してから売却するまでには、様々な費用や税金が発生します。具体的にどのような費用が、どの段階で必要になるのかを事前に把握しておくことで、資金計画を立てやすくなり、安心して手続きを進めることができます。

ここでは、相続登記、相続、売却の各段階で発生する主な費用と税金について解説します。予期せぬ出費に慌てないよう、しっかりと確認しておきましょう。

相続登記の手続きで発生する主な費用

相続登記の手続きでは、主に税金と専門家への報酬が発生します。最も大きな費用は、登記を申請する際に法務局へ納める登録免許税です。これは不動産の固定資産税評価額に一定の税率をかけて計算されます。

その他、戸籍謄本などの必要書類を取得するための手数料や、手続きを司法書士に依頼した場合の報酬が必要です。司法書士への報酬は事務所によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円が目安となります。

不動産の相続で課税される相続税

相続税は、亡くなった方の遺産総額が「基礎控除額」を超える場合に課税される税金です。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算され、遺産総額がこの範囲内であれば相続税はかからず、申告も不要です。

もし遺産総額が基礎控除額を超える場合は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に税務署へ申告と納税をしなければなりません。不動産の評価額が高額な場合は、税理士に相談することをおすすめします。

不動産の売却で課税される譲渡所得税

不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対しては、所得税と住民税が課税されます。これを総称して譲渡所得税と呼びます。譲渡所得は「売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)」で計算され、利益が出ていない場合は課税されません。

税率は不動産の所有期間によって異なり、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下だと短期譲渡所得(税率39.63%)、5年超だと長期譲渡所得(税率20.315%)となります。相続した不動産の場合、被相続人の所有期間を引き継ぐことができます

譲渡所得税の負担を軽減する3つの特例

亡くなった親の土地を売る際の税金は高額になりがちですが、一定の要件を満たすことで、譲渡所得税の負担を軽減できる特例制度があります。これらの特例を適用するには、確定申告が必要です。代表的なものを知っておきましょう。

主な特例には、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」や「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(3,000万円控除)」などがあります。適用要件が複雑なため、税務署や税理士に相談することをおすすめします。

親名義の家の売却で注意すべき3つのこと

親名義の家の売却を円滑に進めるためには、手続き面だけでなく、相続人間の人間関係や将来的なリスク管理にも配慮する必要があります。事前に注意点を押さえておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。

ここでは、特に相続人が複数いる場合や、手続きの確実性を高めるためのポイント、そして物件の管理に関する注意点を3つに絞って解説します。しっかりと確認し、後悔のない売却を目指しましょう。

相続人が複数いる場合は全員の合意が必須

相続人が複数いる場合、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、その合意がなければ家の売却は進められません。一人でも反対する人がいれば、遺産分割協議書を作成できず、相続登記も申請できなくなってしまいます。

親の家に対する思い入れは人それぞれであり、すぐに売却することに抵抗がある相続人もいるかもしれません。感情的な対立を避け、全員が納得できる結論を見つけるための丁寧な話し合いが何よりも重要です。

遺産分割協議書は公正証書にしておく

相続人全員の合意内容をまとめた遺産分割協議書は、通常は私文書として作成しますが、より証明力と執行力を高めるために「公正証書」にしておくことをおすすめします。公正証書は、公証人が作成に関与する公的な文書です。

公正証書にしておくことで、後から「合意した内容と違う」といった紛争が起きるのを防ぐ効果があります。特に不動産のような高額な財産が含まれる場合や、相続人間の関係に不安がある場合には、有効なトラブル防止策となります。

空き家のまま放置しないようにする

相続した実家をすぐに売却せず、空き家のままにしておくことには多くのリスクが伴います。建物は急速に老朽化し資産価値が下がるだけでなく、定期的な管理の手間やコスト、固定資産税の負担が継続して発生します。

さらに、適切に管理されていない空き家は「特定空家」に指定され、固定資産税の優遇措置が受けられなくなったり、行政から解体を命じられたりする可能性もあります。売却するにせよ活用するにせよ、方針を早めに決めて行動に移すことが肝心です。

まとめ:親の家の売却は相続登記から始めよう

この記事では、亡くなった親名義の家を売却するための一連の手続きについて解説しました。最も重要なポイントは、売却活動を始める前に、必ず「相続登記」を完了させなければならないということです。この手続きなくして、売却は不可能です。

相続登記は2024年4月から義務化されており、すべての相続人にとって必須の手続きです。複雑な手続きや税金のことで不安があれば、司法書士や税理士、不動産会社といった専門家の力を借りながら、一歩ずつ着実に進めていきましょう。

親名義の家の売却と相続登記のよくある質問

相続登記せずに親名義の家は売却できる?

いいえ、原則として売却できません。不動産を売却するには、その時点での所有者が売主となる必要があります。亡くなった親名義のままでは法的な売主が確定しないため、買主への所有権移転登記ができず、売買契約は成立しません

必ず遺産分割協議を経て相続登記を完了させ、不動産の名義を相続人に変更してから売却活動を開始するのが一般的な流れです。亡くなった親の名義の家は売却できますか、という質問の答えは「相続登記後なら可能」です。

相続登記の申請はいつまでにすればいいの?

2024年4月1日に相続登記が義務化されたことにより、申請期限が設けられました。具体的には、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内」に申請する必要があります。

正当な理由なくこの期間内に申請しなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。不動産相続が発生したら、売却する・しないにかかわらず、速やかに登記手続きを進めることが重要です。

親名義のままだと相続税はかからないの?

相続登記の手続きと相続税の申告は、全く別のものです。相続税は、被相続人の遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に課税されます。これは登記名義とは関係ありません。

つまり、親名義のままで相続登記をしていなくても、課税対象となる遺産を相続した事実があれば、相続税の申告・納税義務が発生します。相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告が必要なので注意しましょう。

相続手続きは誰に相談すればいい?

相続手続きは内容によって専門家が異なります。それぞれの分野の専門家へ相談することで、スムーズに手続きを進めることができます。主な相談先は以下の通りです。

相続全般の調整や紛争解決は弁護士、相続登記の手続きは司法書士、相続税の申告は税理士、不動産の売却査定や販売活動は不動産会社が専門です。ご自身の状況に合わせて、適切な専門家を選びましょう。

実家を相続する際にやってはいけないことは?

実家を相続する際に最も避けるべきなのは、相続人間のトラブルにつながる行動です。例えば、他の相続人の同意を得ずに、遺産分割協議が終わる前に実家の家財を勝手に処分したり、売却の話を進めたりすることは絶対にしてはいけません。

また、相続手続きを面倒だからと放置することも問題です。相続登記が義務化された今、手続きを怠ることは法的なペナルティにつながる可能性があります。まずは相続人全員でしっかりと話し合う場を設けることが大切です。

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