親が遺した実家を相続したものの、相続登記が未了で売却できずにお困りではありませんか。手続きの複雑さや相続人同士の話し合いなど、何から手をつければ良いか分からず、時間だけが過ぎていくことに焦りを感じている方も多いでしょう。
この記事では、相続登記ができていない実家を売却するための全手順を分かりやすく解説します。放置するリスクから具体的なステップ、費用、専門家との連携方法までを網羅しているため、読み終える頃には問題を解決するための道筋が明確になります。
相続登記できない実家は売却できません
結論からお伝えすると、相続登記が完了していない、つまり故人名義のままの実家は売却することができません。不動産の売却は所有権を移転する法律行為であり、その大前提として、ご自身が法的な所有者であることを証明する必要があるからです。
売却を考えているのであれば、まず相続登記を済ませて不動産の名義変更を完了させることが不可欠です。このセクションでは、なぜ相続登記が売却の前に必要なのか、その法的な理由と2024年から始まった義務化について詳しく解説します。
故人名義の不動産は売却手続きが不可
亡くなった方の名義のままでは、その不動産を法的に有効な形で売却することはできません。買主は、登記簿上の所有者からしか物件を購入できず、故人との間で売買契約を結ぶことは不可能だからです。
もし登記をしないまま売却しようとしても、買主は住宅ローンを組むことができず、取引は成立しません。安全な不動産取引の根幹として、現在の所有者への名義変更が絶対条件となります。
なぜ売却の前に相続登記が必要なのか
不動産登記には、その権利を第三者に対して主張できる「対抗力」という効力があります。相続登記を行うことで、あなたがその実家の正当な所有者であることを公的に証明でき、初めて買主へ所有権を移転する売却活動が可能になります。
相続人全員の合意を証明する遺産分割協議書を基に登記を済ませることで、買主も安心して取引に臨めます。つまり、相続登記は売却という権利行使の前提となる手続きなのです。
2024年から相続登記が義務化されました
法改正により、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。これにより、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記申請を行うことが法的な義務となり、過去に発生した相続も対象となります。
正当な理由なくこの義務を怠った場合、10万円以下の過料という罰則が科される可能性があります。売却の予定がなくても、相続が発生したら速やかに登記手続きを進めることが重要です。
相続登記しない実家を放置する5つのリスク
相続登記をしないデメリットは、単に実家が売れないというだけではありません。放置することで、金銭的な負担や法的なトラブルなど、様々なリスクが生じる可能性があります。後で悔やむことのないよう、事前に危険性を理解しておくことが大切です。
ここでは、実家の相続登記を怠ることで発生する代表的な5つのリスクを具体的に解説します。これらのリスクを避けるためにも、早期の手続きがいかに重要かをご理解いただけるでしょう。
不動産の売却や担保設定ができない
最も直接的なリスクは、不動産を自由に処分できなくなることです。売却はもちろんのこと、その実家を担保にして金融機関から融資を受けるといった活用も一切できなくなります。
急にまとまった資金が必要になった場合でも、大切な資産であるはずの実家を現金化したり活用したりする道が閉ざされてしまいます。これは大きな機会損失と言えるでしょう。
相続人が増えて権利関係が複雑化する
手続きを先延ばしにしている間に、相続人の誰かが亡くなってしまうと、その方の相続人(子や孫)へ権利が引き継がれる「数次相続」が発生します。これにより、関係者がネズミ算式に増えていく可能性があります。
関係者が増えれば増えるほど、面識のない親族も含まれるようになり、遺産分割協議の合意形成は格段に難しくなります。権利関係の複雑化は、解決をより困難にする大きな要因です。
固定資産税の支払い義務は継続する
相続登記が未了で故人名義のままでも、固定資産税の納税義務がなくなるわけではありません。法律上、その不動産の相続人全員が連帯して納税する義務を負うことになります。
実際には相続人の代表者へ納税通知書が送付されますが、支払いを巡って親族間でトラブルになるケースも少なくありません。誰も住んでいない空き家のための税負担は、精神的にも経済的にも重荷となります。
相続登記の義務化で過料の対象になる
前述の通り、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続の開始を知った日から3年以内に登記申請をしないと、法的なペナルティが科されるリスクがあります。
正当な理由がないにもかかわらず申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。これまでのように「いつかやればいい」と放置しておくことはできなくなりました。
空き家問題で近隣トラブルに発展する
管理されずに放置された空き家は、老朽化による倒壊の危険、庭の雑草や害虫の発生、不法投棄や放火の標的になるなど、様々な問題を引き起こします。これらの問題は、近隣住民との深刻なトラブルに発展しかねません。
万が一、建物の倒壊などで隣家に被害を与えてしまった場合、所有者として損害賠償責任を問われることになります。適切な管理ができないのであれば、早期の売却を検討すべきです。
相続登記から実家売却までの全6ステップ
相続登記から実家の売却までは、法的な手続きや関係者との調整など、やるべきことが多く複雑に感じるかもしれません。しかし、手順を一つずつ整理して進めれば、決して難しいものではありません。着実にゴールへと向かうことができます。
ここでは、相続人の確定から売却代金の決済まで、実家売却を成功させるための全6ステップを具体的に解説します。この流れに沿って進めることで、手続きをスムーズに進められるでしょう。
ステップ1:戸籍謄本等で相続人を確定
最初に行うべきは、法的に誰が相続人となるのかを正確に確定させることです。亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)等を取得し、相続権を持つ人を全員リストアップします。
この作業は、後の遺産分割協議を有効に行うための大前提となります。もし漏れがあると、協議自体が無効になる可能性もあるため、非常に重要なステップです。
ステップ2:遺産分割協議で所有者を決定
相続人が確定したら、全員で遺産分割協議を開き、誰が実家を相続するのかを話し合って決めます。売却を前提とする場合は、代表して手続きを進める相続人が単独で相続する形にすることが一般的です。
この協議は相続人全員の参加と合意が必須です。遠方に住んでいる人がいる場合は、電話や書面のやり取りで進めることも可能です。全員が納得する形で結論を出すことが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。
ステップ3:合意内容を遺産分割協議書に記載
遺産分割協議で全員の合意が得られたら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。この書類には、誰がどの財産を相続するのかを明確に記載し、相続人全員が署名と実印の押印を行います。
遺産分割協議書は、法務局で相続登記を申請する際の重要な添付書類となります。法的に有効な書類を作成するため、司法書士などの専門家に作成を依頼すると安心です。
ステップ4:司法書士に依頼し相続登記を申請
遺産分割協議書や戸籍謄本などの必要書類が揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局へ相続登記を申請します。この手続きは専門知識を要するため、司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士に依頼すれば、書類の収集から申請書の作成、法務局への提出まで一任できます。手続きのプロに任せることで、ミスなく迅速に登記を完了させることができます。
ステップ5:不動産会社に査定と売却を依頼
相続登記が完了し、実家の名義がご自身に変わったら、いよいよ売却活動を開始します。まずは複数の不動産会社に査定を依頼し、実家がいくらで売れそうか、信頼できる会社はどこかを見極めましょう。
売却を任せる不動産会社が決まったら、媒介契約を結びます。相続案件に詳しい不動産会社を選ぶことが、スムーズな売却成功のポイントです。
ステップ6:買主と売買契約を結び決済する
不動産会社の販売活動によって購入希望者が見つかったら、価格や引き渡し条件などを交渉し、合意に至れば売買契約を締結します。契約時には、買主から手付金を受け取ります。
その後、契約で定めた日時に残代金の決済と物件の引き渡しを行います。司法書士立ち会いのもと、所有権移転登記の手続きも同時に行われ、これで売却に関するすべての手続きが完了です。
実家の相続登記と売却にかかる費用一覧
相続登記から実家の売却までには、様々な種類の費用が発生します。事前にどのような費用がどれくらいかかるのかを把握しておくことで、資金計画を立てやすくなり、安心して手続きを進めることができます。
ここでは、相続登記の手続きで発生する費用、不動産の売却で発生する仲介手数料、そして売却益にかかる税金という、3つの主要な費用について詳しく解説します。
相続登記の手続きで発生する主な費用
相続登記にかかる費用は、主に「登録免許税」と「司法書士報酬」の2つです。登録免許税は、不動産の固定資産税評価額に税率0.4%を掛けて算出される税金で、法務局に納めます。
司法書士報酬は、手続きを代行してもらう専門家への手数料で、一般的に10万円前後が相場です。このほか、戸籍謄本などの書類取得費用が数千円かかります。合計で15万円から20万円程度を見込んでおくと良いでしょう。
| 費用の種類 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額 × 0.4% | 法務局に納付する税金 |
| 司法書士報酬 | 8万円~15万円程度 | 手続き代行の手数料 |
| 書類取得費用 | 数千円~1万円程度 | 戸籍謄本や住民票など |
| 合計 | 15万円~20万円程度+α | 評価額により変動 |
不動産の売却で発生する仲介手数料
不動産会社に売却を依頼し、無事に契約が成立した場合、成功報酬として仲介手数料を支払います。この手数料は法律で上限が定められており、売買価格が400万円を超える場合は「(売買価格 × 3% + 6万円) + 消費税」が上限となります。
例えば、実家が2,000万円で売れた場合の仲介手数料は、最大で72万6,000円(税込)です。仲介手数料は売却が成功しなければ発生しない費用ですが、売却経費の中では最も大きな割合を占めます。
売却益にかかる譲渡所得税と節税特例
実家を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税と住民税が課税されます。譲渡所得は「売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)」で計算されますが、取得費が不明な場合は売却価格の5%で計算します。
ただし、一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる「空き家の3,000万円特別控除」という特例が利用できます。この特例を適用できれば、税金の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
専門家と連携して問題をスムーズに解決
相続登記や不動産売却には、法律や税務など専門的な知識が不可欠です。すべての手続きを自分一人で進めようとすると、膨大な時間と労力がかかるだけでなく、思わぬミスやトラブルを招く恐れもあります。
問題をスムーズかつ確実に解決するためには、各分野の専門家の力を借りることが最善の策です。ここでは、どのような場面でどの専門家に相談すればよいのか、そして信頼できる専門家の選び方について解説します。
相続登記は司法書士へ相談するのが確実
相続登記は、登記の専門家である司法書士に相談するのが最も確実で効率的です。相続人の確定に必要な戸籍謄本の収集から、法的に有効な遺産分割協議書の作成、法務局への登記申請まで、一連の煩雑な手続きをすべて代行してくれます。
特に相続関係が複雑な場合や、平日は仕事で時間が取れない方にとって、司法書士は頼れるパートナーとなります。まずは無料相談などを利用して、気軽に問い合わせてみましょう。
実家の売却は不動産会社へ相談しよう
相続登記が完了し、不動産の名義が自分に変わったら、次は売却の専門家である不動産会社に相談します。不動産会社は、物件の適正な価格査定から、効果的な販売活動、買主との交渉、売買契約の手続きまで、売却全般をサポートしてくれます。
大切なのは、地域や物件の特性をよく理解し、相続案件の取り扱い経験が豊富な不動産会社を選ぶことです。複数の会社に相談し、担当者の対応や提案内容を比較検討すると良いでしょう。
相続に強い専門家を選ぶときのポイント
信頼できる専門家を選ぶことは、相続から売却までを成功させるための重要な要素です。専門家を選ぶ際には、以下のポイントを参考にしてください。
- 相続案件に関する実績や経験が豊富か
- 相談に対する説明が丁寧で分かりやすいか
- 見積もりの内容が明確で、料金体系に納得できるか
- レスポンスが迅速で、親身に対応してくれるか
初回相談は無料で行っている事務所も多いため、まずは複数の専門家と実際に話してみて、相性を確かめることがおすすめです。
まとめ:専門家と相続登記を進め実家を売却
相続登記が未了の実家は売却できず、2024年4月からの義務化によって放置し続けることのリスクは一層高まりました。権利関係の複雑化や近隣トラブルなど、様々な問題に発展する前に、速やかに行動を起こすことが重要です。
複雑な手続きをスムーズに進める鍵は、専門家との連携にあります。まずは司法書士に相談して相続登記を確実に完了させ、次に不動産会社と協力して売却を進めるという手順を踏むことで、大切な資産を円満に次へと繋げることができるでしょう。
実家の相続と売却に関するよくある質問
亡くなった父親名義の家を売るには?
亡くなったお父様名義の家を売却するには、まず相続登記の手続きが必要です。相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が家を相続するのかを決定し、その内容に基づいて法務局で名義変更を行います。
ご自身の名義に変更されて初めて、買主との間で売買契約を結ぶことができます。手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。
相続登記を3年以内にしないとどうなる?
2024年4月1日から相続登記が義務化されたため、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記申請を行わないと、法的なペナルティが科される可能性があります。
正当な理由がないにもかかわらず期限内に手続きをしなかった場合、10万円以下の過料の対象となるため、注意が必要です。
相続登記しないと固定資産税はどうなりますか?
相続登記をしていなくても、固定資産税の納税義務は法定相続人全員にあります。通常、市区町村は相続人の代表者一人に納税通知書を送付し、その代表者が支払うことになります。
支払い方法については、相続人同士で話し合って分担を決める必要がありますが、支払いを巡るトラブルの原因にもなりやすいため早めの登記をおすすめします。
相続登記ができない場合はどうすればいいですか?
相続人間での遺産分割協議がまとまらず相続登記ができない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てる方法があります。調停委員が間に入り、話し合いによる解決を目指します。
調停でも合意に至らない場合は、審判手続きに移行し、裁判官が分割方法を決定します。まずは、弁護士や司法書士といった専門家に相談し、状況に応じた最適な解決策を探りましょう。
相続した実家を勝手に売却してもいいですか?
いいえ、絶対にできません。実家が複数の相続人の共有財産である場合、一人の判断で勝手に売却することは法律で固く禁じられています。必ず相続人全員の同意が必要です。
売却を進めるには、遺産分割協議で相続人全員の合意を得て、その内容を遺産分割協議書に明記した上で、正式な手続きを踏まなければなりません。
